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第三十二話 きらめきの影、微笑みの裏で①

last update Last Updated: 2025-07-17 06:01:38

【二〇二五年 杏】

 映画が終わり、お昼休憩をとるため、私たちはレストランへとやってきた。

 雅也が予約をしていてくれたようで、混んでいたにもかかわらず、すんなり席へと案内された。

 とても高級そうなところだ。

 フレンチかイタリアンか、そういう料理が出てきそうな店の雰囲気。

 静かにクラシック音楽が流れている。

 ……女性を口説く時に、いつもここへ連れてきているのだろうか。

 私は呆れたように雅也を眺めた。

 いかにも、こいつが好みそうなところだ。

 席に着き、注文を終えた私が一息ついたとき、雅也が声をかけてきた。

「よかったですね、映画。杏さんは楽しめました?」

 突然の問いかけに、少し焦りながらも正直な感想を伝える。

「ええ、よかったです。二人の恋愛模様がとても切なくて、涙が出そうになりました」

 これは本音だった。

 どこか物悲しい恋愛映画で、私は勝手に修司のことを思い出してしまい、危うく泣きそうになってしまった。

 雅也とのデート中に、修司を思い出すなんて。

 ……ほんと、自分でも笑えてくる。何やってるんだろ。

「そうですよね……素敵でした。

 あの二人のように、私も好きな人に想われたいものです」

 雅也の瞳がゆらゆらと揺らめき、熱い視線が私に注がれる。

 けれど、そんなふうに見つめられても、私の心は冷めきっていた。

 ただ、仕方ないので少しだけ微笑んでおく。

 食事も終盤に差しかかったころ、雅也が何やらウエイターにこそこそと話しかけていた。

 いったい、何を話しているんだろう?

 気になった私は、声をかけてみた。

「あの……何か?」

「いや、何も」

 そっけない返事に、少し焦る。

 まさか、私が何かしでかした?

 それで機嫌を損ねた?

 惚れやすい人って、冷めるのも早いっていうし……。

 まあ、嫌われたなら、それはそれで。

 この人とは

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憮然野郎
え...️雅也が何か企んでいるんでしょうか? それとも……...
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